- ✓鍼灸師の資格とは「はり師」と「きゅう師」という2つの別個の国家資格のこと。単一の「鍼灸師」資格は存在しない
- ✓受験資格は高校卒業後に養成施設(専門学校・大学)で3年以上学ぶこと。独学・通信だけでは受験できず、年齢の上限はない
- ✓国家試験は年1回・筆記で、合格基準は170点中102点以上。第34回(令和7年度)の合格率ははり師67.2%・きゅう師70.5%
「鍼灸師の資格を取りたいけれど、そもそも“鍼灸師”という資格があるのか、何を勉強してどこで何年学べば取れるのかが分からない」——進路や転職を考え始めた段階で、多くの人がこの入口でつまずきます。実は「鍼灸師」という名前の単一資格は存在せず、鍼(はり)を扱う「はり師」と灸(きゅう)を扱う「きゅう師」という2つの国家資格 を取って初めて鍼灸師と名乗れます。
この記事では、鍼灸師の資格の正体・受験資格・国家試験の中身・合格基準と合格率の推移・取得までの流れを、厚生労働省の根拠法令と、はり師・きゅう師国家試験を実施する公益財団法人東洋療法研修試験財団の公表データ という公的な一次情報をもとに、推測を交えず事実ベースで整理します。読み終えるころには、自分が進める道かどうかを判断できる材料が一通りそろうはずです。
鍼灸師の資格とは何を指すのか
検索でよく見かける「鍼灸師の資格」という言葉は、正確には2つの国家資格をまとめた通称です。鍼を用いる施術の資格である「はり師」と、灸を用いる施術の資格である「きゅう師」は、それぞれ独立した国家資格として存在します。両方を取得して初めて、鍼と灸の双方を扱う鍼灸師として働けるようになります。
この2資格は、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律(昭和22年法律第217号)という法律で定められた国家資格です。人体に鍼を刺し、灸で熱を加える施術を行うため、名乗るには国家試験への合格と免許登録が法律上の必須要件になっています。
まず押さえる前提
鍼灸師の資格を取る=「はり師」「きゅう師」の2つの国家資格を取ること。多くの人はこの2資格を同じ養成課程で同時に目指します。
ここを誤解したまま進路を考えると、「鍼灸師の試験はいつ?」と単一試験を探してしまい、情報がかみ合わなくなります。資格が2つに分かれているという前提を最初に押さえることが、正しい情報収集の出発点になります。なお、無資格でも名乗れる民間の「整体師」「リラクゼーションセラピスト」などとは、国家資格である点で法的な位置づけがまったく異なります。
はり師ときゅう師は別の国家資格
はり師ときゅう師は名前が似ているため一体のものと思われがちですが、国家試験は別個に実施され、合否も別々に判定されます。実際、公益財団法人東洋療法研修試験財団が公表する第34回(令和7年度)の結果を見ると、はり師の合格率67.2%に対しきゅう師は70.5%と、同じ受験生集団でも数値が分かれています。これは2つが別資格・別判定であることの表れです。
一方で、「2資格だから2倍の年数や学校に通う必要がある」わけではありません。養成施設の鍼灸科では、はり師ときゅう師の両方の受験資格を同時に満たすカリキュラムが組まれており、在学中に2つの国家試験をまとめて受験するのが一般的です。
2資格を分けて理解する
はり師=鍼を用いる施術の資格、きゅう師=灸を用いる施術の資格。学ぶ場所は1つでも、試験と免許は2系統に分かれている、と整理すると分かりやすくなります。
学ぶ科目は東洋医学だけにとどまらず、西洋医学の基礎までを広く含みます。医療概論・解剖学・生理学・病理学概論・衛生学公衆衛生学・関係法規といった医学・制度系の科目と、東洋医学概論・経絡経穴概論・東洋医学臨床論といった東洋医学系の科目の双方を修めることが求められます。鍼灸が医療の一翼として位置づけられているからこそ、こうした幅広い基礎が要求されるわけです。
受験資格は養成施設で3年以上学ぶこと
国家試験を受けるには、まず大学入学資格(高校卒業など)を満たしたうえで、文部科学大臣または厚生労働大臣が認定した養成施設で、3年以上、必要な知識および技能を修得することが条件です。臨床実習もこの課程に含まれます。
ここが進路設計で最も重要な分かれ目です。鍼灸師は人体に鍼を刺し、灸で熱を加える施術を行うため、受験資格は実技を伴う養成施設での修学に限られます。座学だけで取れる資格ではないため、独学や通信教育のみで国家試験の受験資格を得ることはできません。
学ぶ場には主に次の選択肢があり、年数や通学時間帯が異なります。生活スタイルに合わせて選ぶことになります。
| 学ぶ場 | 標準年数 | 特徴 |
|---|---|---|
| 専門学校(昼間部) | 3年 | 最短で目指せる。日中に通学する |
| 専門学校(夜間部) | 3年 | 働きながら通いやすい時間帯に学べる |
| 大学(鍼灸系学部・学科) | 4年 | 研究や学士号も得られる |
⚠ 独学・通信だけでは受験できない
「独学で取れますか」「通信だけで取れますか」という質問は多いものですが、養成施設での3年以上の修学が受験資格の前提です。通信制を一部活用する課程であっても、認定された養成施設の課程を修了する必要があります。
なお受験資格に年齢の上限は設けられていません。後段で触れるとおり、社会人や主婦が学び直して資格取得を目指す道も制度上は開かれています。
国家試験の概要と受験手数料
国家試験の運用面を、公的な公表値で確認しておきましょう。公益財団法人東洋療法研修試験財団の試験概要によると、はり師・きゅう師の国家試験はいずれも毎年1回実施され、受験手数料は1資格試験につき19,500円です。はり師ときゅう師の両方を受験する場合は、単純計算で39,000円が必要になります。
試験は筆記で行われ、出題される科目は両資格でほぼ共通しています。
試験科目
財団が示す試験科目は、はり師・きゅう師ともに次のとおりです(はり師は「はり理論」、きゅう師は「きゅう理論」が加わる点だけが異なります)。
- ☑医療概論・衛生学公衆衛生学・関係法規(制度系)
- ☑解剖学・生理学・病理学概論(基礎医学)
- ☑臨床医学総論・臨床医学各論・リハビリテーション医学(臨床医学)
- ☑東洋医学概論・経絡経穴概論・東洋医学臨床論(東洋医学)
- ☑はり理論/きゅう理論(各資格固有の理論)
このように、東洋医学に偏らず西洋医学の基礎・臨床まで広くカバーするのが鍼灸師国家試験の特徴です。出題範囲が広いぶん、養成施設での体系的な学習が前提になります。
受験手数料と試験時期
受験手数料は前述のとおり1資格19,500円です。進路の比較記事のなかには「14,400円」など古い金額を載せたものも見られますが、最新の公的な公表値は財団サイトの試験概要で確認できる19,500円です。費用を見積もるときは、養成施設の学費だけでなく、この受験手数料(2資格で39,000円)や免許登録に伴う費用も視野に入れておくと安心です。
試験は年1回・筆記で、例年冬から春先にかけて実施されます。年1回しか機会がない点はスケジュール設計上とくに重要で、卒業見込みの時期と試験日・申請期間を逆算して学びを進める必要があります。
合格基準点と合格率の推移
難易度を測るうえで、合格率だけでなく合格基準点も合わせて見ると実像がつかめます。東洋療法研修試験財団が公表する第34回(令和7年度・2026年実施)の結果では、合格基準ははり師・きゅう師ともに総得点170点中102点以上(約6割の正答)でした。満点を取る必要はなく、基礎をしっかり固めれば届く水準に設定されています。
第34回の実数は、はり師が受験者3,920名・合格者2,634名で合格率67.2%、きゅう師が受験者3,858名・合格者2,720名で合格率70.5%でした。前述のとおり、同じ受験生集団でも両資格で合格率が分かれるのが特徴です。
単年だけでなく推移で見ると、合格率はおおむね7割前後で安定していることが分かります。同財団の受験者数・合格者数の公表値から直近5回をまとめると次のとおりです。
| 試験回(実施年度) | はり師 合格率 | きゅう師 合格率 |
|---|---|---|
| 第30回(令和3年度) | 74.2% | 76.1% |
| 第31回(令和4年度) | 70.4% | 71.7% |
| 第32回(令和5年度) | 69.3% | 70.2% |
| 第33回(令和6年度) | 73.9% | 74.9% |
| 第34回(令和7年度) | 67.2% | 70.5% |
合格率が7割前後と聞くと「比較的やさしい」と感じるかもしれませんが、これは養成施設で3年以上学んだ受験生が臨んだ結果である点に注意が必要です。基礎医学から東洋医学まで幅広い科目を体系的に修得していることが前提であり、準備不足で合格できる試験ではありません。
数値の出典と年次
本セクションの合格率・受験者数・合格基準点は、公益財団法人東洋療法研修試験財団の公表値(第30〜34回、令和3〜7年度)に基づきます。最新の試験日程・基準は受験前に同財団・厚生労働省の公式情報で必ず確認してください。
なお、受験者数は近年やや減少傾向で推移しています。志望者にとっては、業界全体の動向の一つとして頭の片隅に置いておくとよいでしょう。
資格取得までの流れ
ここまでの内容を、取得までの道のりとして時系列で整理します。
- 1
進路を決め、養成施設を選ぶ
3年制の専門学校か4年制の大学か、昼間部か夜間部かを、生活スタイルと費用に合わせて選びます。受験資格は認定された養成施設での修学が前提です。
- 2
養成施設に入学し、3年以上学ぶ
解剖学・生理学などの基礎医学から東洋医学、臨床実習までを修得し、はり師・きゅう師双方の受験資格を満たします。
- 3
はり師・きゅう師の国家試験を受験する
国家試験は年1回・筆記で実施され、受験手数料は1資格19,500円。2資格をまとめて受験するのが一般的です。
- 4
合格し、免許を登録する
それぞれの試験に合格したうえで、はり師・きゅう師として免許を登録することで、鍼灸師として施術できるようになります。
このうち時間がかかるのは養成施設での3年以上の修学で、ここをクリアすれば受験資格が得られます。試験が年1回である点を踏まえ、卒業見込みの時期に合わせて受験する計画を、入学段階から意識しておくと安心です。試験の実施回や合格基準は東洋療法研修試験財団が毎年公表しています。
資格取得後にできることと免許登録
国家試験の合格はゴールではなく、その後の免許登録までを終えて初めて資格が有効になります。はり師・きゅう師は法律に基づく国家資格であり、登録を済ませることで施術を業として行えるようになります。
資格を取得したあとの働き方は幅広く、鍼灸院での勤務のほか、はり師・きゅう師が独立開業できる国家資格である点を生かして自分の治療院を開く道もあります。医療機関・介護・スポーツ・美容など活躍の場が多様なことも、この資格の特徴です。
資格が持つ強み
はり師・きゅう師は、勤務だけでなく独立開業という選択肢を持てる国家資格です。経験を積んだうえで働き方を自分で設計しやすい点が、長く働くうえでの強みになります。
鍼灸師という職種の仕事内容やキャリアの広がりをさらに詳しく知りたい方は、鍼灸師のキャリア情報もあわせてご覧ください。
社会人・独学に関するよくある疑問
資格について検索する人がとくに気にする点を、公的情報に沿って整理します。
まず年齢についてです。鍼灸師の受験資格は、高校卒業などの学歴要件と養成施設での3年以上の修学を求めますが、年齢の上限は設けられていません。そのため、社会人や主婦が学び直して鍼灸師を目指す道は制度上開かれています。実際、夜間部のある養成施設を選び、働きながら通うルートを取る人もいます。
次に独学・通信についてです。社会人・主婦であっても、独学や通信教育のみでは受験資格を得られない原則は変わりません。前述のとおり、認定された養成施設で3年以上学ぶことが全員に共通の条件です。働きながら目指す場合は、夜間部のある養成施設の3年課程を修了するのが基本ルートになります。
- ☑受験資格に年齢の上限はない(社会人・主婦からでも目指せる)
- ☑養成施設で3年以上学ぶ条件は全員に共通(独学・通信だけでは不可)
- ☑夜間部を使えば働きながら・家庭と両立しながら通いやすい
- ☑はり師・きゅう師は取得後に独立開業もできる国家資格
費用面では、養成施設の学費に加え、2資格分の受験手数料(計39,000円)や免許登録費用がかかる点を見込んでおきましょう。社会人の学び直しでは、教育訓練給付金制度や奨学金などの公的な支援制度を利用できる場合もあるため、進学先や自治体・ハローワークの最新情報を確認することをおすすめします。
まとめ
鍼灸師の資格とは、(1)「はり師」「きゅう師」という2つの国家資格を指し、(2)受験資格は高校卒業後に養成施設で3年以上学ぶこと(独学・通信だけでは不可、年齢上限なし)、(3)国家試験は年1回・筆記で受験手数料は1資格19,500円、(4)合格基準は170点中102点以上で合格率はおおむね7割前後、という点が全体像の核です。第34回(令和7年度)の合格率ははり師67.2%・きゅう師70.5%でした。資格の構造と取り方を正しく押さえれば、自分に合った進路を具体的に検討できます。鍼灸師の仕事やキャリアをさらに知りたい方は、鍼灸師のキャリア情報もご覧ください。